あなたは166,007km(本日7km ⁄ 昨日6km)を走破したライダーです!

Australia - オーストラリア縦横断オートバイ旅行記 1988


第6章 フィリップ島(28日目〜32日目)

テントの前に群がるカモメ
テントの前に群がるカモメ

28日目

ナルーマのキャラバンパークはテントのすぐ目の前が浜辺で、しかも海の色は素晴らしく青い。快適なここにもう1泊して、衣類の洗濯をすることにした。洗った衣類を干して乾かさなければならないので、洗濯といえばそれはもう連泊が必須である。

コイン式のランドリーで洗った洗濯物をテントの前に張ったロープで干しながら、のんびりと1日を過ごす。近所のスーパーで買ってきた袋入りのパンは食べきれないほどの量が入っていたので、これを少しずつちぎってテントの前にまくと、沢山のカモメが集まってきた。間近で見るカモメたちは思いのほか表情豊かで、いつまで見ていても飽きなかった。

(1,327km / East Van Park Riverside, Narooma / August 2, 1988)

29日目

ニュー・サウス・ウェールズ州からビクトリア州に入り、周囲の風景が変わってきた。これまでの草原の丘と地平線の広々とした風景から、大きな木々が次第に増し、ハイウェイは森林に囲まれるようになった。まるでカナダの森林を思わせる。もちろんカナダに行ったことは一度もないのだが……。

ビクトリア州に入る
ビクトリア州に入る

今日は移動時間を長めに夕方までとり、少しだけ距離を稼いだ。350kmといえば、ちょっとしたツーリングにおいては、長い距離というわけではない。ただ、このような先のまだまだ長い旅の場合には、マラソンのように消耗を抑えつつ持続させなければならない。そして、移動距離を抑えるということは、速ければそのまま通過してしまうような道中の内容の密度を高めることができるから、できるだけそうしたいと思っている。

シドニーを出発してから、メルボルンまであと3分の1ほどだ。

(1,663km / Caravan Park, Orbost / August 3, 1988)

30日目

もうキャンベラからずいぶんと南下してきたので、寒くなってくるだろうことをある程度は覚悟していた。ここオーストラリアは南半球であるから、南へ行くほどに気候が寒くなるからである。フリースの上着も捨ててきてしまったし、すでに防寒着といえば今着ているクシタニのライディングジャケットだけだから、じつは寒さは心配だった。

メルボルンまで227km
メルボルンまで227km

しかし、思ったほどの寒さではない。やはり標高の高かったキャンベラとは違うのだろうか。それとも、そろそろ春なのかもしれない。

時間の過ぎるのが早い。日本を出発してからもう1ヶ月が経った。

(1,792km / Tourist Caravan Park, Bairnsdale / August 4, 1988)

31日目

セールという町から、プリンセスハイウェイを離れ、さらに海寄りのルートを行くことにした。この先には野生のペンギンを見ることのできるフィリップ島もある。

海沿いのルートへ
海沿いのルートへ

もともと曇りがちな天気ではあったが、200kmほど走ったところで、突然強烈に雨が降り出した。すぐにレインウェアの上下を着込むが、気温がぐんぐん下がるのと、走っているので全身に受ける風圧とで体温が奪われてゆく。ひどく寒い。

まもなく、この寒さには勝てないと判断し、ウォンサギーという町で今日は泊まることにした。すでに身体の心まで冷えきってしまい、震えるほどの寒さにテントを張る気も起きないから、モーテル泊とした。

ここでのモーテルというと、モーターとホテルからの文字どおり車の旅行者用の宿で、各部屋の前に駐車スペースのある形である。35Aドルはこれまでになく高額な宿泊費となってしまったが、部屋は広く、シャワーとトイレットそれからテレビまである。たまにはいいだろう。モーテルは快適で温かく、ようやく生き返った気がした。

寒さに負けモーテル泊
寒さに負けモーテル泊

ここからフィリップ島まではあと30kmだから、明日はペンギンを見ることができそうだが、テレビの天気予報によれば残念ながら引き続き雨のようだ。

(2,075km / Motel, Wonthaggi / August 5, 1988)

32日目

天気予報は少々はずれたのか、時々雨が降ってはくるが、レインウェアが必要なほどではない。また、気温もなんとか耐えられる程度を保ってくれていた。

広大な牧草地
広大な牧草地

フィリップ島までは近かったので、ゆっくりと走っても午後の早い時間には島の中心地カウズという町に着いてしまった。ペンギンを見ることのできる夜までにはまだ十分に時間がある。キャラバンパークを見つけテントを張り荷を置いてから、とりあえずオートバイで島を1周してみることにした。

フィリップ島は周囲50kmほどの島だが、本土から橋がかけられているため、車でもオートバイでもそのまま渡ることができる。ここでは毎晩決まった時刻になると、日中に海に狩りに出ていた野生のペンギンの群れが、海岸の巣穴に戻るために一斉に上陸してくるという。その様子を見ることができるそうだ。

右上にコアラ
右上にコアラ

まずは、コアラ保護区域へ行ってみる。オートバイを停め、そのユーカリの林の中を歩くと、たしかにそこでは何匹かのコアラを見つけることができた。ユーカリの木の上でじっとして動かないコアラたちはまるでぬいぐるみのようで、それほど面白いものではなかった。
島の最西側にある、野生のアザラシの群生するシールロックスという島を見ることのできる岬にも行ってみるが、残念ながらアザラシを見ることはできなかった。
そんな感じでのんびりと島を周っているうちに夜になった。

シールロックス
シールロックス

楽しみにしていたペンギンパレードを見るためには、驚いたことに入場料が必要だった。それは自分の情報不足ではあったが、仕方なしに2.25Aドルを払い入場券を買う。海岸まで歩き、しっかりと作られた柵の内側で立ち見でペンギンを待つ。ここで偶然にも日本からきた女性2人組の旅行者と会い、一緒に見ましょうということになった。

こちらが観客席ならば、海はさながら大きなステージのようだ。日も落ち暗くなると、係員の今ですという放送と同時に、ペンギンたちがぞろぞろとステージからあがってきた。数十匹ほどだろうか。それはフェアリーペンギンという少し小さめの種類だそうだ。彼らは砂浜を順序よく並んでよちよちと歩き進み、草むらの中にいくつもある巣穴へと吸い込まれるように消えていった。それはあっという間の出来事だった。

フィリップ島のフェアリーペンギン
フィリップ島のフェアリーペンギン

たしかにペンギンは可愛かったが、あまりにもシナリオ通りというか、餌付けでもされているかのように思えてしまう。あれは本当に本物の野生なのだろうか……。

やはり、観光地という感じのフィリップ島ではあった。再び雨が降り出し、彼女たちとも別れ、キャラバンパークのテントへと帰った。メルボルンまであと120kmほどだ。明日はいよいよメルボルンだ。

(2,253km / Bushy Park Caravan Park, Cowes / August 6, 1988)


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