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第2章自転車での出発・後編
−The Diary 1988 in Australia−

12日目 July 17
 キャンプの朝は爽やかだった。
 皆で焚き火を囲んで座り、驚いたことにひとりがいきなり聖書を読み上げ始めた。よく考えると今日は日曜日だから、礼拝である。その間中ほかの誰一人声を出さず、じっと聞き入っている。何十分続いたのだろうか。その内容をほとんど理解出来ない私には長い時間だった。
 帰りは4駆ならではの林道を楽しんだ。川を渡り、悪路を越え、急斜面を登る。いくら走っても舗装路に出てしまうことなどない。これほど楽しめる林道がこれほどの距離続くなどということは日本ではありえない。
 ここをオートバイで走りたい。心の中でそんな気持ちが一瞬湧き上がった。カンガルーが森の中を飛び跳ねていた。
(Mr.Crane's House,Heathcoat)

13日目 July 18
 ロドニーとその家族に見送られてHeathcoatを出発した。別れ際に、これを持っていくようにと聖書を手渡してくれた。日本でいうお守りのようなものだと思う。ありがたく持っていくことにした。
 しかし、心には迷いが生じていた。
 黙々とペダルを踏み続けながら考える。自分はこの広大なオーストラリアを、この自転車で、この足で、走りきることが出来るのだろうか。走ろうという気力が薄れてきているような気がした。疲れのせいもあったかもしれない。しかし、それだけではなかった。
 これまでに、私はオートバイでの旅を愛してきた。北海道の自然は感動を与えてくれ、東北の人情はあたたかみを教えてくれた。九州で起こした事故は旅の教訓を強烈な痛みとして思い知らせてくれた。全国をいろいろと周った。どの旅もが素晴らしかった。だからこそ、こうしてオーストラリアを旅している・・・
 オートバイで来るべきではなかったのか。
 今ならまだやり直せるかもしれない。私はオートバイで走るべきなのだ。旅はまだ始まったばかりではないか。
 それは、バイクで走りたいという衝動だった。そう決断した私は鉄道の駅を地図で探し、シドニー行きの2階建て列車に自転車ごと乗っていた。
(C.B.Private Hotel,Sydney)

 とうとうオートバイで周ることに。これだから旅はおもしろいのです。


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