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第13章再び北へ・後編
−The Diary 1988 in Australia−

60日目(September 3)
 朝になっても雨が止まない。北へ行けば晴れていることを予想し、雨の中を出発した。1時間も走ると、予想どおりこちらでは雨は降っていなかった。途中、虹を見ることが出来た。
 しかし、この暑さ。まともではない。いつの間にか、周囲はジャングルになっている。空には翼長が50cmもあるコウモリが飛び回る。気味が悪い。蟻塚も北へ来るほどに大きさを増し、今では人の背丈ほどになった。やはり、赤道に少しずつ近づいていっているだけのことはある。
 マタランカ自然公園に着いた。ここのキャンプエリアでテントを張ることにする。ここはジャングルの中に温泉が湧き出し、観光の名所ともなっている。観光客も多い。湧き出した温泉は川となり、天然の露天風呂をつくっている。日本でもよくあるジャングル風呂のようなものだ。しかしこれは正真正銘の本物である。川底は砂と岩で、水深は背が立たないほどの所もあった。周りのジャングルには蛇も多いようだ。もう1ヶ月ぐらいシャワーしか浴びていない。久しぶりに肩まで湯に浸かることが出来た。
( Mataranka Homestead Camp area / Mataranka / 8,426km )

61日目(September 4)
 オートバイは快調に走る。しかし、この異常な暑さではこっちの身体がもたない。Cutta Cutta Cave(クタクタ鍾乳洞)という標識を見つけたので、寄っていくことにした。普通なら鍾乳洞の中は涼しいものだ。少しは楽になるかもしれない。
 行ってみると、管理用の小屋が建っていた。そこで料金を払うと、女性のガイドが一緒について来て解説をしてくれた。だが入ってみて失望した。全然涼しくはない。外の気温が高過ぎるためだろうか。
 きょうはKatherine(キャサリン)峡谷国立公園のキャンプグラウンドで泊まることにした。峡谷を流れるキャサリン川にはワニが生息する。ただし危険はあまりなく、ここではカヌーに乗ることもできるという。明日は川まで行ってみようと思う。すぐ近くだ。
 暑さのためか食欲がない。夜になっても気温は30度位までにしか下がらない。湿度も高く、耐えがたい蒸し暑さだ。それに毒蜘蛛やサソリがいるらしいので、テントの出入口は閉じている。中はまるでサウナのようだ。じっとしていても汗が噴き出してくる。とても眠れたものではない。
 どうしようもない暑さに耐えていると、テントの外から微かな物音が聞こえてきた。不審に思い、出入口をそっと開けて外を覗いてみる。驚いたことにテントの周りはカンガルーでいっぱいだ。少し小さいので多分ワラビーだと思われる。闇の中、何十匹という数が、地面に生えた草を食べている。聞こえていたのは、彼らが草を地面からちぎり取る音だったのだ。中には二匹でじゃれ合っているものもいて、これがちょうどボクシングをしているように見える。よく話に聞くカンガルーのボクシングは本当だったのだ。
( Katherine Gorge Caravan Park / Katherine / 8,582km )


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