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第8章アデレード・後編
−The Diary 1988 in Australia−

40日目 August 14
 風景が昨日までとは一変した。今までに経験したことのない広さ。大海原を走っているような気分。実感が湧いてこないまま、大平原の中を一直線に突き進む。スチュアートハイウェイを北へ。
 ここから先はロードハウスが100〜300km間隔にあるだけだ。それ以外には何もない。ガソリン、食料、そして水の補給もロードハウス以外では出来ない。シドニーで手に入れておいた10L入りの予備燃料タンクにもガソリンを満たした。自然と気持ちが引き締まる。
 大平原の中に、巨大な塩湖が姿を現した。その大きさは、おそらく縦横ともに数十kmはあるだろう。湖水は干上がり、その広大な真っ白い湖面は塩の結晶である。目に入る全てが、自分にとって初めて見る光景。ここは想像を絶する場所だ。嬉しさと感動と興奮が込み上げてくる。
 そんな塩湖をいくつか見ながら、Glendamboというロードハウスに辿り着いた。その建物の裏手のキャンプ用スペースにテントを張る。
 太陽が地平線にゆっくりと沈んでいった。
(4407km,Caravan Park,Glendambo)

41日目 August 15
 日中の気温はなんと30度を超えた。暑い。北へ行くほどに暑くなってくる。乾燥した空気。吹きつける砂埃。砂漠の雰囲気だ。
 オパールの採掘で有名なCoober Pedyの町に到着し、ここで泊まることにする。町のあちこちに、採掘のために掘られた無数の穴と、掘り返した土砂の山。暑さをしのぐため、ここでは住居さえも掘られた地面の下にある。
 自分のテントは、残念ながら暑い地上に張ることにした。
(4664km,Caravan Park,Coober Pedy)

42日目 August 16
 大平原の中、スチュアートハイウェイを走る。制限速度は110km。しかし、100kmほどに抑えて走らないと極端に燃費が落ち、エンジンオイルの減りも早くなることがわかった。ここでは燃料とオイルは大切にしなければならない。単気筒4ストローク250ccのこのオートバイでは仕方ないことだろう。その代わり、この車体の軽さが有利なのだから。
 ハイウェイを走っていると、橋を渡ることがある。そこには川があるわけだが、どの川にも水が一滴も見当たらない。砂で埋め尽くされた川。川幅は数mから数十mほどまでいろいろある。たぶん雨期になると水が流れるのだろう。そのせいか、川の周辺だけ、まばらではあるが木々が茂っている。
 木々の枝にはピンク色のオウムたちが群がるようにとまっている。なんという種類かわからないが、オウムの一種だろう。オートバイを停め、彼らをよく見ようと近づいてみる。すると、オウムたちはいっせいに鳴き始めた。木々の上からこちらを見下ろし、ギャーギャーとすごい勢いだ。しばらくしても鳴き止む気配がない。あまりにしつこく鳴き続けるので、オートバイをスタートさせることにした。それは、おまえの来る場所ではないという、彼らの警告のようにも聞こえた。
 路上には体長が40cmほどもあるトカゲをよく見かける。ハイウェイの真ん中で身動きもせずに、昆虫などの餌が近づいてくるのを待っているのだろうか。可哀想なことに、そのまま車に轢かれ、潰れて干からびてしまった彼らの死骸もよく見かけた。
 たまにすれ違う対向車は、挨拶代りに手を振るドライバーがそのフロントウインドウ越しに見えた瞬間、後方にすっ飛ぶように走り去って行く。
 Marlaというロードハウスまで来た。アリススプリングスまであと500kmほどだ。この調子なら再会の約束は果たせそうだ。しかし、この暑さには参る。これでも冬なのだろうか。
(4918km,Caravan Park,Marla)


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