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第10章エアーズロック・後編
−The Diary 1988 in Australia−

50日目 August 24
 岩に打ち込まれた鎖を伝い、エアーズロックを登る。世界的に有名な観光地のため、さすがに登る人が多い。それも登山道が渋滞してしまうほどだ。起伏のない斜面のため、後ろを振り向くと意外と高度感がある。足を滑らせたら下まで止まらないだろう。しかし、遮るものが何一つ無いため眺望は最高だ。
 頂上には、登頂者が自分の名前を書き込めるようノートが置かれていた。自分の名を書き込む。周囲を見渡すと素晴らしい眺めだ。360度の荒野が地平線へと続く。その中にマウントオルガが、まるで島が浮かぶかのようにポツリと存在していた。近いようだが30km先だ。
 エアーズロックを早めに下山し、マウントオルガへ向かう。今までとは変わって未舗装の赤い砂の道が続いていた。洗濯板状に荒れた路面も多く、注意が必要だ。再びこのルートで山下氏と一緒になり、2台でマウントオルガへ向かうことにした。観光客もここまでは来ないようで、ほとんど人を見ない。
 マウントオルガは、丸みを帯びたこぶのような岩山が数個並んだような形をしている。その高さは数百mはあるだろうか。こぶとこぶの隙間、「風の谷」と呼ばれるその谷を縫うように、2時間ほどのトレッキングコースがある。このコースを二人で歩いて行くことにした。両側を巨大な岩の壁に囲まれた風の谷。周囲の荒野から隔離されたような、この別世界をのんびりと楽しむ。不思議な感覚だ。
(6343km,Ayers Rock Campground,Yulara)

51日目 August 25
 気象条件がそろうと、エアーズロックは夕暮れ時に真っ赤に染まるという。ここへ来てもう3日目になるが、まだ赤いエアーズロックを見たことがない。山下氏は先を急ぐため朝のうちにここを出発したが、自分はもう1日だけ粘ってみることにした。
 夕暮れの時間にはまだ早いが、エアーズロックへ向かう。夕日を背にエアーズロックを見晴らせる場所を探し。オートバイを停めた。周囲には、同じ目的の人たちが意外と集まっていた。
 太陽が次第にその高度を下げていく。まるで時間が止まってしまったかのような動きで。しかし、確実に日は落ちてゆく。
 エアーズロックが赤く染まった。とうとう見ることができた。今までになかった色だ。しかしそれもつかの間。その赤色を下から覆い隠すように、地球の影が這い上がってきた。赤色の部分はエアーズロックの足元から、少しずつ上部に追いやられ、最後に頂上に一瞬残された。が、それも消えた。日没の瞬間だ。大地もろともエアーズロックが闇に包まれる。そして静寂が広がっていく。あまりの荘厳さに、その場を動くことさえ忘れ、ただ立ち尽くした。夜空には星が輝いていた。
(6441km,Ayers Rock Campground,Yulara)


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